来 歴

山羊

心を傾けさえすれば
聞きたい声を聞くことができるのに
或る時天を向いて話しかける
自分の声しか知らないでいる
誰かの分を借りているひげと
自分のでない角だけ生やしている
あの柔和なお面をかぶつているのは誰だろう
かぶり手の後にまた別の使い手がいるのだが
誰からもそれが見られない
食べ物も眠る所も
人からもらわなければ手に入らないのに
なぜひげだけがひとりでにのびたのか
もう忘れてしまつた
何のために生えている角とかも
もう考えなくなつた
ひげのなかつたずつと以前のことは
地球に草がはえていたかともおぼえていない


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